eスポーツで健全な肉体を作る HADOの可能性

仮想現実を用いたコンテンツはVR(バーチャル・リアリティ)が当初こそ注目されていたが、技術の発展によりAR(オーグメンテッド・リアリティ)という「拡張現実」も注目されるようになっている。これはスマートグラスやスマートフォンなど、カメラ越しに処理された映像上に、インタフェースを通して干渉可能なオブジェクトを表示する技術だ。この技術自体は産業用途でも最近注目されており、工事現場の配管位置の確認や労災の事故事例の学習などの用途で用いられている。
しかしこのARというジャンルにおいて、その勃興時点である2014年頃から続いているゲームタイトルがあることはまだ広く知られてはいない。それがHADO(ハドー)というタイトルだ。同作は2014年に株式会社meleapが開発し、2015年からサービス提供が始まった。その最大の特徴は、専用のデバイスを装着したAR(拡張現実)技術を用いる「テクノスポーツ競技」であるという点だ。身体の動きとバーチャル演出が融合した新感覚スポーツとして、国内外で広く普及している。
現在では世界39カ国以上で大会が行われており、身体を使うというフィジカル面を第一に置いたゲームコンテンツである事から参加者の年齢層も老若男女幅広い。3対3のチーム戦をルールとしている為、コミュニケーション向けのコンテンツとしてもある程度の需要を誇っているという。
このeスポーツとしても見られつつあるHADOが、健康面においても影響を与えるという研究結果がこの度明らかになった。
運動と健康とゲームの関係性
株式会社KUL(本社:大阪市中央区、代表取締役:吉田滋)が取り組んでいるeスポーツ「HADO」をテーマとして、常葉大学教育学部の松元隆秀教諭と共同で進めた「HADOにおける活動強度の定量化と心理的影響」に関する研究成果が、2025年8月29日に開催された「日本体育・スポーツ・健康学会 第75回大会」にて松元教諭より発表された事が10月22日に告知された。同社は大阪府和泉市いぶき野の商業施設「エコール・いずみ」内に「HADO ARENA エコール・いずみ」を開設しており、近畿地方におけるHADOのプレイフィールドとしてプレイヤーが集っている経緯がある。
『HADOにおける活動強度の定量化と心理的影響の検討』を研究テーマとし、その目的はHADOプレイ中の身体的活動強度を科学的に測定し、心身両面から健康づくりに与える影響を明らかにすることとなっている。研究成果自体は今後論文という形で発表されるが、報道向けに発表された資料によればHADOプレイ中(約80秒間)の平均活動強度は3.9METsであり、厚生労働省が推奨する「中等強度の身体活動」に相当することを確認したという。この運動強度は歩行よりも強く、ほぼ自転車に乗っている状態に近いレベルである。HADOは短時間で中等強度以上の運動が可能であり、運動習慣や経験を有する者はより高い活動強度を獲得するというメリットがある上に、試合中の役割や性別による影響は小さく、運動習慣がない場合でも一定の運動強度を獲得出来るという点が今回証明された。
また心理的健康への効果として、エネルギッシュで積極的な気分の増大と共にストレスや不安感の軽減といった要素も確認された。これは同タイトルをプレイするにあたって、一般的なユーザー同士のプレイではレクリエーションに近い効果がもたらされるものという事になる。いわゆる「スポーツ然とした緊張要素」はそこまで無いものと見て良いだろう。

参戦するプレイヤーが自由にステータスをカスタマイズ出来るという要素も「テンプレート」を生みにくい土壌となっているのだろう。プレイヤーは弾の大きさや速度、弾丸の連射速度やシールドの展開数とサイズといった要素を、初期ポイント10点の内の6ポイントを使って各項目最大5段階まで引き上げる事が可能だ。そのため「一芸特化で攻める」か「平均的なステータスで調整する」かを選んだ上で、最終的に自身のフィジカルを頼りに戦う競技なのである。その時の体調やチームメイトの適性や相手との相性も考えれば、型にはまった戦術そのものが組めない競技なのだろう。
もちろんeスポーツと名乗る以上、大会もあって然るべきのこの競技。今年はHADO World Cup 2025が開催され、1位のチームには賞金250万円が提供されるという日本発の大会としてはなかなかの賞金額となっている。本サイトでも何度か紹介しているeスポーツプロチームの広島 TEAM iXAにもHADOのプロプレイヤーが在籍している。
こうしたHADOや任天堂の手掛けるリングフィットアドベンチャーの様な「お手軽に身体を動かす事が出来るARやゲーム系コンテンツ」は、eスポーツやRTA(リアルタイムアタック)としても認知を広げている。特にリングフィットアドベンチャーについては実際に28時間で1周クリアを成し遂げた猛者も現れ、運動系コンテンツがエンターテインメントになる様子を見せつけた程である。
HADOはそこまでハードな動きを要求する事はないが、それでも立派な運動要素を持つゲームである。障がい者スポーツとしても注目される同タイトルは、中国などを中心にプロ選手の育成もスタートしつつある。座るだけではなく、動くeスポーツの影響は思った以上に界隈の様子を変えてくれそうだ。