英国ギャンブル委員会、新「入金上限制度」義務化 – 依存症対策を強化へ

英国ギャンブル委員会(UK Gambling Commision/UKGC)は10月、オンラインギャンブル事業者に対し、入金上限額(デポジットリミット)の新制度を導入すると発表した。
このルールはプレイヤーがあらかじめ入金の上限を設定できるようにするもので、業界全体で「責任あるギャンブル」を徹底する狙いがある。

今回の措置は依存症対策と消費者保護の一環で、2026年までに段階的に施行される予定だ。
利用者は登録または初回入金時に、画面上で入金上限額を設定するよう促される。その後も6ヶ月ごとにリマインダー通知が届き、設定内容を定期的に見直せるようになっている。
さらに事業者にはAIと行動データを活用した「異常支出モニタリング」の導入が求められ、ギャンブル依存症や過剰なプレイを防ぐことを目指している。

このルールは、UKGCの公式発表によって明らかになったもので、2026年6月30日以降すべての英国オンライン事業者がこの制度に対応する必要がある。
現行では利用者任意の設定にとどまっているが、今後は初回登録時に必須入力となる。
政府が進めるギャンブル法改革の一環として位置付けられており、「安全なオンライン環境の確立」に向けた中核的な施策とされている。
英国ではこれまでも複数の規制改革が行われてきたが、今回は「自主規制」から「義務化」への転換点として注目されている。

画像提供:Unsplash/Heidi Fin

プレイヤー保護を強化する新方針、その背景にある依存症対策

UKGCのヘレン・ローズ政策ディレクターは「今回の新制度によってプレイヤーが自らのギャンブル行動をより意識的に管理できるようになる」と説明している。また、「入金上限を設定する消費者に一貫性と明確さをもたらすと同時に、事業者がさまざまな形式の上限設定を提供できる柔軟性も維持できるようにしている」と述べた。

このような背景には英国国内で増加するギャンブル依存への懸念が挙げられる。
同委員会の調査によると、オンラインカジノ利用者の約24%が「失ってもよい額を超えて支出した」経験があると回答しており、77%が「プレイに夢中になりやすい」と感じている。
自覚的な支出管理を行なっていると答えた人が81%と回答した一方で、実際には支出のコントールが難しい層も約4人に1人存在しており、こうした現実が今回の制度導入を後押しする要因の1つになったとみられる。

今回の制度では、オペレーター(ブックメーカーやオンラインカジノ運営会社)が上限設定のプロンプトを利用者に提示することを義務化。設定額を超える入金を行おうとした場合には、警告表示や再認証が求められる。支出を可視化することで、プレイヤーが自らの限界を把握できる仕組みだ。

制度導入に先立ち、英国政府はデータ分析企業や依存症対策団体と協議を重ね、リスク評価モデルの共通化を進めている。個人データの取り扱いをめぐる懸念もあるが、UKGCは「プレイヤーの行動を監視するためではなく、異常パターンを早期検知することが目的」と説明している。
この制度は2025年末に一部事業者で試験導入が始まり、翌年には全ライセンス事業者に適用される見込みだ。業界はすでに”次の基準”として受け入れる動きが広まっている。

国際的な潮流と、日本が直面する課題

英国のこの動きは、ヨーロッパ全体で進む責任あるギャンブル政策の一環でもある。
スウェーデンやオランダ、マルタでは同様の制度が導入されており、AI分析を活用したリスク検知が一般化している。
ドイツでも2023年に導入された新ライセンス制度で月間入金上限が定められるなど、規制の方向性は共通している。
透明性と安全性を確保しながらギャンブルをエンタメ産業として成熟させようとする潮流が欧州全体で強まりつつある。

今回の制度を受け、業界内からは過度な介入を懸念する声も上がっている。
特に小規模事業者にとっては、システム導入コストの負担が課題とされている一方で、制度導入を前向きに評価する姿勢も見られ、長期的には利用者との信頼強化につながるとの声も多い。

日本ではオンライン賭博が法的に認められていないものの、海外ライセンスを通じた利用者は着実に増加している。こうした国際的な動きを踏まえ、今後は日本企業やメディアも責任あるギャンブルの視点から情報発信や啓発を進めることが求められるだろう。
今回の英国の新制度は単なる規制強化にとどまらず、安全で透明なギャンブル文化を築くための新たな基準として世界の業界が注目している。